「くるみの木」(Der Nussbaum)は、ロベルト・シューマンの歌曲集『ミルテの花』(Myrthen)作品25の第3曲です。シューマンの「歌曲の年」と呼ばれる1840年に作曲され、結婚式前日の9月12日に、愛するクララ・ヴィークへ純潔の象徴であるミルテの花で飾って贈られました。
テキストはドイツの詩人ユーリウス・モーゼン(1803–1867)によるものです。家の前に立つ1本のくるみの木が緑の葉を広げ、快い香りの花々が咲いている情景が描かれます。やさしい風が葉をそよがせ、花々は互いにささやき合い、花婿のこと、来年のことを語ります。木のもとで耳を傾ける乙女は、微笑みながら眠りに落ち、愛の夢へと誘われていきます。
ト長調で書かれたこの曲は、くるみの木の葉がそよ風に揺れる様子を表現する、流れるような16分音符のアルペジオによるピアノ伴奏が特徴的です。通作形式により、詩の情景に寄り添いながら音楽が自然に展開していきます。属七の掛留音が独特の温かみと優しさを与えています。
ピアノと歌声の融合が絶妙で、ピアノの旋律的動機が歌のフレーズに先行し、また後を追い、やがて歌声に対する繊細な対旋律へと変化していきます。この伴奏と旋律を一体化させる手法は、後のヨハネス・ブラームスなどに大きな影響を与えました。
歌曲集『ミルテの花』全26曲は、ゲーテ、ハイネ、リュッケルト、バーンズ、バイロンなど7人の詩人のテキストを用い、愛の詩の豊かな世界を紡いでいます。「くるみの木」は第1曲「献呈」(Widmung)と並んで単独で演奏される機会が最も多い曲の一つであり、その親密な魅力と叙情的な美しさで広く愛されています。
作曲年
1840
作品番号
Op. 25, No. 3
出典
パブリックドメイン